動作痛・自発痛などの左右に片寄りがある病症に速効性があり、同時に十二経絡の虚実、適応側決定、証の決定に不可欠な診断法でもある。また、片方刺し鍼法の根拠の一つでもある。
脉診流「子午鍼法」は、時間治療法ともいわれる子午流注針法・納支法の理論を基礎にしていますが、その時間的制約を排除し、拮抗する陰陽経絡の調和を図ることだけに専念する鍼法となっています。
つまり、病症が存在する実経絡に対し、拮抗する虚の経絡を捉えて補うだけの簡単明瞭な補的鍼法と位置付けられています。
たとえば、病症(実)が右側の陽経上にある時、定められた拮抗経絡である左側の陰経(虚)を補えばいいのです。この鍼法では、左右の陰と陽の拮抗する経絡を次のように定めています。
簡略にいうと「胆―心」「肝―小」「肺―膀」「大―腎」「胃―心包」「脾―三」となっており、シーソーのように右の経絡に病症(実)があるとき、左側の拮抗経絡は虚を呈している。そして、その虚した経絡を補えば、実の経絡が平らかになり、平らかになったとたんに痛みは消失するのです。 言い換えるに、時間に関係なく、簡単明瞭に左右手足の拮抗する陰陽経絡の虚実を調整するだけの誰にでもできる即効鍼法として確立していることに大きな特徴があります。
単純明快でありながら、即効性、且つ、再現性の高い経絡鍼法となってり、毎日、実践に使用できる鍼法なのです。
「鍼灸聚英」などの古典を要約すると、「子午流注針法・納支法」の原則は、次のようになります。
人の体は、氣血栄衛が1日24時間、十二経絡内をそれぞれ2時間ごとに旺気しながら循環する。気血栄衛が経絡を巡る順番は、まず朝の3時から5時の太陰肺経が身体管理する担当時間帯から始まるとされています。つまり「手の太陰肺経から始まり、手の陽明大腸経―足の陽明胃経―足の太陰脾経―手の少陰心経―手の太陽小腸経―足の太陽膀胱経―足の少陰腎経―手の劂陰心包経―手の少陽三焦経―足の少陽胆経―足の劂陰肝経、そして太陰肺経」と、終わりなき環のごとく循環し、防衛体制を敷いているのです。
朝3時から5時に旺気する太陰肺経に対し、拮抗する昼の3時から5時の時間帯は太陽膀胱経の担当時間帯と定まっており、その時間帯に担当経絡が邪に侵され、旺気できなくなることで病症が発現するのです。
その時間帯の担当経絡に合わせ病症の虚実を診断し、補瀉する治療法を「子午流注針法・納支法」というのです。この場合時間的に制約されることになり、少し複雑な治療法とも言えます。
臨床上の要注意点は、重篤病症や慢性症状には実が極まり虚となったものがあり、定則どおり拮抗経絡に補法を行うと痛みの増悪が起こります。もちろん脉締も得ることはできません。
この場合、病症経絡と同側の経絡を補わなければいけませんが、そのとき同時に必ず脉締を得ることになります。
これを当会の子午鍼法では、同側子午と命名し、対処しています。たとえば、同側子午は重症病症に多く診られ、定則どおり補うと脉は締まらず浮いて患部の痛みが悪化してしまうことがありますが、これは明らかに、患部の痛みが実痛から虚痛に転じており、相当穴に瀉法を加えれば痛みは軽減するが、本治法の証決定を視野に入れている当会では、補法優先の原則を重視し、むやみに瀉法は行いません。
ゆえに、手足の左右上下の経絡の虚実を整えることを目的にして、患部と同側に取穴し補うと即、除痛されるのです。
虚とは人体の精気の虚弱な状態、邪との戦い後の疲れ弱った状態であり虚、細、微、弱、濡などの脈状を呈す。実とは邪気が偏盛して人体を悩ます病症が出現している状態の多くを言う。
しかし虚実の本当のところは、出現している病症・病状・主訴の強弱だけでは決して判断できない。病症論に言う虚実の定義はあくまで原則であり、今現在の臨床の中でこそ虚実診断がなされなければいけない。
子午鍼法は、病症患部経絡の虚実診断を臨床的に判定できる最高の診断方法のひとつである。
たとえば痛み・重み・腫れ・凝り・麻痺・ツッパリなど病証に対して子午鍼法を行うことで、病症患部経絡に対する子午拮抗経絡を推測し、補法手技をなし、病症軽減をもって虚実診断ができるのである。